ギャップ仮説

阿川佐和子さんが熊本に来てくれたそうです。熊本県知事は元東大教授の政治学者。松下政経塾でも教えておられたので院長の兄の先生でもあります。鳥インフルの時に「初動が肝心」と県職員に徹底させ株をあげました。知事が県立大理事長に招聘した五百旗頭先生は阪神淡路大震災で家が全壊した経験を持ち、かつ東日本大震災復興構想会議の議長もされた方だそうです。二人は安心して見ていられます。

週刊文春2017.4.6P170阿川佐和子のこの人に会いたい 熊本県知事 蒲島郁夫

蒲島 高校卒業後、農協に入って二年間働き、二十一歳のときに農業研修生としてアメリカに渡ったんですが、朝早くから夜遅くまで大変な肉体労働の生活でした。ただ、研修中三ヵ月、ネブラスカ大学で学ぶ機会があって、「勉強とはこんなに楽なんだ」とそこで気づかされまして。

阿川 肉体労働に比べれば。

蒲島 はい(笑)。その後、一度日本に帰って旅費を貯め、ネブラスカ大学に戻って、豚の精子の研究をするんです。指導教官から「大学に残れ」と言っていただいたんですが、子供の頃に持っていた「政治家になりたい」という夢を思い出して、ハーバード大学で一から政治学を学びました。

阿川 その後、帰国されて筑波大学、東京大学で教鞭をとられて。

蒲島 ええ。ハーバード大学で研究していたときの恩師が、サミュエル・ハンティントンという有名な人で、彼は”ギャップ仮説”というものを提唱したんですが、私はそれに沿って災害対応してるんです。

阿川 ギャップ仮説?

蒲島 式にすると、分母が「実態十展望」、分子が「期待値」です。この値が大きくなればなるほど不満が出てくる。

阿川 うん? 先生、なんですって?わかんないっす。

蒲島 つまり、期待値が、実態十展望より大きくなると、人は不満を感じるようになるんです。災害対応に当てはめると、まず人命救助の段階だと「生きててよかった」となるけれども、次の日には水、食料と期待が高まりますよね?

阿川 そのあとは「あったかいものが食べたい」とか、「もっとおいしいものが食べたい」とか。

蒲島 そう。住まいも、最初は避難所に入れるだけでも幸せだけど、時間が経つにつれて徐々に快適性を追求するようになる。その期待値に実態なり展望がついてこないと、不満だけじゃなく、最終的には暴動になるというのがハンティントンの理論なんです。

阿川 面白〜い!

蒲島 そうならないようにするのが政治家ですから。だからどんどん実態や展望を作っていかなきゃいけない。

阿川 期待が大きくなりそうなタイミングに合わせてですか?

蒲島 それよりもずっと先回り、です。有識者会議にしろ、熊本城にしろ、誰もそこに期待していないタイミングにとにかく実態を作らなきゃいけない。もちろんすぐに実態を作れないときもあるから、そのときは展望を示さなきゃいけないんです。

阿川 周りがそこまで気が回っていない段階でも、トップは見て、決断して、行動しなければならないと。

蒲島 はい。私は政治学を勉強していてよかったなと思うんですよ。世の中の人は政治学者がいい政治家になるはずがないと思ってるでしょうけど(笑)。

阿川 ハイ! 失礼ながら思ってます。どうせ机上の空論じゃないかって。

蒲島 それが役に立つんですよ(笑)。ソクラテスの言葉に、「政治家やその志望者のなかには、政治というものは非常に習得が困難であるにもかかわらず、訓練もせず、勉強もせずに突然、勝手に政治の達人になれると考えている者がいる。まことに不思議である」というのがあるので、政治学者が政治家になっても成功するというのは、別に変なことではないんです。

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