週刊文春2016.8.11・18P151「気をつけろ、”後妻”があなたを狙ってる」黒川博行(原作)大竹しのぶ(後妻役)映画『後妻業の女』公開!
黒川 いや、『後妻業』は知人が被害にあった、完全な実話なんですよ。
大竹 えっ……(絶句)。
黒川 ある日、僕の知人の年配女性から電話がかかってきて、「九十一歳の父親が脳梗塞で入院しているんだけど、後妻がいきなり公正証書遺言を持ち出してきて全財産を欲しいと言ってきてる」と。
大竹 まさしく小夜子そのものですね(笑)。
黒川 で、知り合いの弁護士を紹介したところ、公正証書を取られていれば、もう法的に立ち向かう手段はないと。ただ、遺留分請求はできると。
大竹 映画内のセリフと同じだ……。
黒川 で、弁護士がね、その「小夜子」みたいな七十八歳の後妻を調べましょうと言って、今度は探偵事務所に頼んだんです。実際にそのおばあさんを調べたら、過去九年で、夫が四人死んでるんですよ。
大竹 えー! それは刑事事件にはなってないんですか?
黒川 なってないんです。生命保険に入ってないから。要するに遺産だけ上手に取っているんです。
大竹 遺産だけだと事件性は薄いという風に警察は見ちゃうんですね……。
黒川 そういうことです。過去九年間で四人というのはあくまで籍を入れた夫の数です。小夜子のように、籍を入れず、公正証書遺言だけを取った相手もその間に入っていますから、多分六、七人は死んでいると思うんですけども……。
大竹 じゃ、そのおばあさん、この小説や映画を見たらどう思うんでしょう。
黒川 いや、もう自分のことだってわかってるでしょう(笑)。で、当時七十八歳ですから、過去九年間ということは、六十九歳まで遡っているんです。探偵に依頼する調査料が高額なので、知人女性は過去九年しか調べてもらってないのですが、もっと過去に遡って調査したらさらに被害者は増えるでしょうね。
大竹 で、結果として先生のご友人のお父様はどうなったんですか。
黒川 入院して半年後に亡くなりました。そもそも脳梗塞で倒れた時も、すぐに救急車は呼ばず、倒れたのを知っていた近所の方から「おたくのご主人どうしてますか」と翌日に問われて初めて救急車を呼んだんですよ。
大竹 それじゃあ、だいぶ手遅れな状況に……。
黒川 もう話せないし、全身麻痺ですよね。しかも、最初はナースステーションの隣りの個室に入ってたんですけれど、後妻が来るたびなぜか点滴が外れたり。
大竹 そこまでやるんですか!?
黒川 おまけにその後、ナースステーションから一番離れた個室に移すことまでやったんです。知人女性はさすがに父親が殺されると思って、後妻が見舞いに来たときは必ずナースについていてくれと頼んでいましたが、結局お父さんは亡くなった。亡くなる直前に僕に相談が来たわけです。結果として知人女性は一億円取られました。
大竹 気になるのは、後妻と一緒にいたことをお父さんは幸せだと思っていたんでしょうか。
黒川 どうでしょう。通い婚で、半年くらいしか付き合ってなかったんです。お父さんが住んでいたマンシヨンに僕も後で取材に行ったのですが、金庫がドリルで開けられてました。
大竹 映画では鍵師が開けていた場面ですね。そんな話が身近にあったとは知りませんでした。ちなみにその後妻の方は今は……。
黒川 元気にしてますよ(笑)。
大竹 えっ先生、その人をご存知なんですか?
黒川 いくつかの週刊誌や通信社の記者が取材に行ったので、彼女の写真や何を話したかは把握しています。きれいに化粧しているし、直接話をした人に聞くと、ものすごく口が上手いらしいんですよ。ただ、刑事事件化できなかったので、ウラが取れないということで記事にはなっていません。
大竹 じゃあ、もしかしたら、世の中に後妻業はいっぱいあるんですか?
黒川 あるでしょうね。殺さなくてもいいんですよ。要は八十歳、九十歳のおじいさんだったら、一緒に住んでたらいつか死ぬわけですから。男はアホやからコロッと騙すされるんですよ。
大竹 へえ〜。
黒川 小説では小夜子が男を騙すまでの過程というのを描いていないんですが、映画ではそのあたりを大竹さんが本当に上手く表現してくださって。
大竹 ありがとうございます。でも、小夜子役にピッタリですね、と言われると、それはそれで複雑ですね(笑)。映像はやろうと思えばもっと残酷に出来たりするんですけど、そこは鶴橋(康夫)監督が、うまく軽さを出してくださったんだろうと思います。入院している耕造さん役の津川さんに対して、歌いながら血管に空気を注射するんですもんね(笑)。