週刊ビッグコミックスピリッツ平成29年5月1日号「広げよう復興の輪!」小学館
スポーツが持つチカラVol.1
ロアッソ熊本
巻誠一郎インタビュー
地域と密接に結び付き活動する、スポーツクラブ。
熊本地震発生後、Jリーグクラブ・ロアッソ熊本の巻 誠一郎選手は率先して支援活動を行い、被災地に住む人々に勇気を与えた。そんな巻選手に、この1年の歩みと、取り組んだ活動について聞いたーーー
[Profile]1980年8月7日、熊本県宇城市生まれ。184cm、81kg。FW。元日本代表。熊本地震直後から支援活動を開始。その姿はTVやネットで流れ、復興支援のシンボルとして全国から共感を得る。
本震が起こった時は実家にいました。寝ようと思っていた時でしたね。尋常ではない揺れで、立てない。絶対に逃げなくてはいけないと思いました。
幸運なことに僕の実家は無事でしたが、近所でたくさんの家が倒壊していました。普通の生活ができなくなるような地震でした・・・
復興支援を本格的に始めるようになったきっかけはFacebookです。「家族共々安全です」と発信したらすごい数の返信をいただいたのですが、その中に「ライフラインが止まって困っている知り合いに物資を届けたいのですが、どうすればいいでしょうか」といった相談もありました。経営者が集まるLINEグループで相談したところ、知り合いの社長さんが食料、水、衛生用品、衣類などの物資をまとめて置いておける20平米ほどの倉庫を貸してくれることになりました。また、福岡の倉庫も貸りられることになり、熊本にすぐに運んで来られない物資の中継地点に使わせてもらいました。同時に物資を配れる人を探しました。
もう夢中でしたよ。自分の限界を超えてやっていました。できることを探して次々に行動に起こしていく。ありがたいことに協力してくれる方がいて(協力してくれた方の中には東日本大震災の時にも手伝われた方が何人かいました)コミュニティーが広がっていきました。
最初の1週間は、倉庫で物資を下ろして、飲み物、食べ物、衣類、ベビー用品、衛生用品などに仕分けし、配送車に積み直すという作業をひたすらしていました。多い時は1日10回くらい配送車が出入りしている時もありました。ほとんど倉庫から出られませんでしたね。人手が足りずロアッソのメンバーに協力してもらったことがあったのですが、いつも一緒にサッカーをやっているからチームワークバッチリで、あっという間に作業が終わっちゃうんです。サッカー選手ってすごいですね(笑)。
子供たちへのサッカー教室もやりました。ロアッソのチームメートと「ボールは俺が持って行くよ。ゴールはあそこから持っていこうか」と分担して準備して。子供たちは楽しそうにサッカーをしてくれたんですが、そしたら、僕らもすごく嬉しくなったんです。切羽詰まった、ずっと緊張している中から解放された気分というか。つられて、周りにいる子供たちの親や、おじいちゃんおぱあちゃんたちも笑顔になってくれて・・・スポーツにはそういうチカラがあるんですね。
その後、「YOUR ACTION KUMAMOTO」という募金サイトを立ち上げたのですが、信じられないくらい反響がありました。日本のサッカーファミリーと言えばいいのでしょうか、いろんなチームのサポーターや、サッカーファンが支援してくれました。募金は、基本的には熊本のスポーツ活動支援、特に子供たちの活動に使っています。
そうこうしているうちに5月15日にJリーグが再開しましたが、なかなか勝てませんでした。1か月間サッカーをしなければコンディションは落ちる。オフシーズンでさえ丸々1か月サッカーをしないということはありませんから。
順位が下がる中、踏みとどまらせてくれたのはサポーターたちの想いでした。印象的なエピソードがあります。僕はよく避難所に物資を届けに行っていたのですが、そこに住んでいたおじいちゃん、おばあちゃんが「試合観にいったよ!」と声をかけてくれたのです。また、試合後、チームバス乗降場にあるファンサービススペースで、避難所で会った子供が「僕を覚えてますか?」と声をかけてくれたこともありました。もう、嬉しいなんてもんじゃなかったですよ!
復興で本当に大事なことってなんなのか、何度も何度も考えましたが、「壊れたものを取り戻すことが復興ではない」と僕は思います。地震があって僕らは前より強くなっている。人とのつながりも大きくなっている。震災前よりも素晴らしい熊本を作ることが復興だと思っています。