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「美女の骨格 名画に隠された秘密」宮永美知代、青春出版社、2009
P128
『源氏物語絵巻』に描かれた表情
誰しも一度は国語の教科書や資料集などで、『源氏物語絵巻』の図版を目にしたことがあるのではないでしょうか。平安時代、紫式部が『源氏物語』を著してから一世紀ほどの時間を経て作成されたといわれていますが、江戸時代初期に描かれたという説もあり、現在ではこちらがもっとも有力だと考えられています。
ともあれ、絵画での顔の描き方は目、鼻、口はくるっと描かれたふくよかな輪郭の中に納まり、奈良時代を踏襲していますが、少しずつ、変化が見られるようになります。
その変化とは”表情”です。 奈良時代に描かれた「鳥毛立女屏風」と『源氏物語絵巻』の印象は異なります。「鳥毛立女」は目は黒目まではっきりと描かれますが、『源氏物語絵巻』ではさらに目は細くなり、″引目鉤鼻"という描き方になっています。
源氏の人物たちは下ぶくれの顔型に”引目鈎鼻”で顔のパーツが描かれます。「鳥毛立女」から通じる顔のかたちがここに見えます。
そして『源氏物語絵巻』には、表情を描こうとする繊細な工夫が、随所に見てとれるのです。
第三九帖「夕霧」では、夢中で恋文を読む夫に後ろから音もなく近づこうとする妻の顔に描かれた目は、わずかにつり上がり方が強く、嫉妬の表情がほのかに描き出されています。
また、ものうげな表情も見てとれます。「宇治十帖」の場面で自分の子ではない皇子をそれと知りながら胸に抱いている源氏の姿は、やはり赤子を慈しみながらも哀しげにも見えるようです。
源氏の心の中の葛藤を知りながらこの絵巻を見る人は、この顔からあらゆる感情を読み取ることができるでしょう。『源氏物語絵巻』に通底する静かに抑制された表情表現ゆえに、高貴さや品格を感じ取るのだと思います。
日本には感情をあからさまにしないことを美徳とする文化があります。そのあたりは諸外国からは奇異に映ってきたところです。
伝統的には、京の貴族社会で、ことさらそうした表情が発達したと思われます。というのは、自ら武力を持たない公家は、次第に力を持ちはじめた武家との間で、うまく政治をおこなわねばなりませんでした。喜怒哀楽をそのままストレートに面に表すようなことをしていては何事も立ち行かないからです。そう考えれば、貴族社会では無表情や控えめな表情が美徳とされたことは、容易に想像がつきます。
見る人の思い入れか、というほどのかすかで微妙で控えめな表情表現なのですが、『源氏物語絵巻』の登場人物たちの表情は、各段の物語にそっと寄り添うような感情の表現として読み取れるのです。
鳥毛立女屏風
源氏物語絵巻 夕霧
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