気圧と体調A

おとな二人の午後 異邦人対談、五木寛之、塩野七生、世界文化社、2000、P199

五木 低気圧による低血圧の兆候は、まず頭の重い感じ、手にもった物を落としたりすること、また唾液が粘つく。それから吐き気、からだのだるさ、手先の冷たさと反対の首筋の熱さ、それから微熱。そういうのがぜんぶ起きることもあります。ぼくはひどい偏頭痛に長年悩んできたんだけど、気圧の変化に対応していくってことを考えるようになってから、ずいぶん楽になりました。気圧が下がりかける谷間のときがいけないんです。で、そういう時期に風呂にはいらない、アルコールを飲まない、それからハードな仕事をやらない。

塩野 原稿は書かない(笑)。

五木 そう、原稿書かない、睡眠をたっぷりとって。無条件で、じつは、いま、低気圧だから、締め切りの仕事できませんってみなさんにそう言う(笑)。

塩野 担当編集者はなんて、言います?

五木 「五木さん、気圧が下がってきましたけど大丈夫でしょうか、締め切りは」とかって(笑)。だいたい、締め切りと睡眠不足とお酒が重なると、必ず、気圧が下がってきて、調子が悪くなる。

塩野 ハッハハハハハ。

五木 でも、この自分がじつは大気の気圧の変化に左右されてる存在なんだと気づいたときに、ものすごく男としての自信が回復したんです。いわば地球全体の大気が呼吸しているのが気圧なんですね、その一部として自分も天地自然のなかで生きてることを、気圧の変化によってぼくはからだで実感し、確認できた。大自然にその一部として組み込まれて生きてるのは女性だけじゃないんだなと。ぼくの本のタイトルの『大河の一滴』はそんな大自然の一部である自分という意味なんですよね。おかげで五十歳過ぎぐらいになってから、やっと偏頭痛から逃れ出ることができました。

塩野 それまでは、偏頭痛がたいへんでした?

五木 二十年ぐらい、どうしたら治るかと考えつづけてました。頭痛は人類最古の病気と言われてるんですよ。ジュリアス・シーザー、つまりカエサルも頭痛もちだったでしょ。それから関羽(かんう)も頭痛に悩まされた。長島監督も偏頭痛もちらしいですね。それから、ルイス・キャロルは偏頭痛の妄想のなかで『不思議の国のアリス』を書いたという。ところが、頭痛と風邪を治せば、人類を救うことになるぐらいだけど、これが現代の医学でもなかなか克服されてない。頭痛薬というのは、なかなか効かないときがあります。頭痛をケミカルな手段で治そうとしてもだめなのかもしれない。そのときにやっぱり、自分の生活を宇宙の呼吸に合わせて、それに逆らわない、無理をしない、そんなことがやっとできるようになったのが、五十五歳ぐらいですかね。

塩野 じゃあ、五木さんはこの十年はずっと楽になられたのねえ。

五木 そうなんです。このあいだぼくは専門医に、やっと最近血管の拡張や収縮が少なくなって、偏頭痛がおさまるようになってきましたと言ったら、「それは五木さん、年をとって血管が硬くなっただけの話ですよ」と言われた(笑)。つまり、いままでは血管が若くて弾力があったから、大気の気圧の変動を受けるんで、頭痛知らずの人はむしろ血管が硬いらしい。だから、偏頭痛があると、そうか、まだ自分の血管は若いんだと思って安心すればいいんです(笑)。

塩野 なるほど。

五木 頭痛のない人は動脈硬化が起きやすいそうです。血管性の頭痛は血管が若くてしなやかなために、収縮したり拡張することで起こるんですね。気圧が下がって、血管が拡張するでしょう。そうするとからだのなかのホメオスタシス(恒常性)を保つ器官が、血管を収縮させる物質を出すそうです。そのリアクションによってギュッと締めつけられるような偏頭痛が起きる。だから、血管が拡張しなければ頭痛は起きないわけ。頭痛なんて私は知りませんという若い人がいるけれども、きっとすでに頭がカチカチなんだよ(笑)。

(後略)

(院長註:かなり専門家(医者)の考えが入っていると思います。院長は気圧との関係の講義を受けた覚えはありませんが、台風の中、親知らずだったり、歯槽膿漏だったり、腫れたという患者さんを3度、4度と見ることがあったので、やはり気圧と腫れは関係あるなと以前から実感として感じています。)

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