マニフェスト4題4 ケンカに強くなれ

週刊朝日2005.9.30号
惨敗民主の大粛清が始まる
 民主党の前原誠司氏(43)は代表選の出馬表明直前の9月15日夕、菅直人前代表(58)に電話を入れた。
 「代表は選挙で決めたほうがいい。菅さんも出馬してください」
 自分の側近だった前原氏からの「挑戦状」に、さすがの菅氏も一瞬、「俺と若手が対決するという構図はどうか…」と躊躇した。
 その直後の記者会見で前原氏が表明した「公約」はすさまじい内容だった。
 「民主党を戦う集団に変える」「旧弊を断ち切る」「党内融和を優先する政治手法は徹底的に排除する」「当選回数は関係なく能力主義を徹底する」…。
 それを見た菅氏は「出馬しなければ逃げることになる」と周囲に言い残し、その夜、促されるように出馬表明に至ったのだった。
 総選挙で民主党は、小泉首相から「郵政民営化に賛成できないのは労組の支援を受けているからだ」と攻撃された。前原氏の言う「旧弊」は、労組を意識したものにほかならない。
 「前原氏が代表になれば労組との関係を整埋する」「総選挙の大敗はけがの功名。選挙に勝てない候補者は全員交代してもらう」前原氏周辺からは若手による「大粛清」を、うかがわせる発言が相次ぐ。自民党の一部を切り捨て、国民的支待を得た小泉首相の発想と重なり合う。小選挙区で勝てないのに比例で復活当選を続けるベテラン議員や、出身母体への労組しか顧みない参院議員への反発が若手を覆う。
前原氏の先輩はもはや20人だけ
 総選挙で惨敗した民主党では今後、前原氏や野田佳彦(48)、枝野幸男(41)、玄葉光一郎(41)各氏ら40代以下の発言力が急速に増すのは間違いない。逆風の総選挙で勝ち残ったのは若手だった。
 若手登用に批判的な小沢一郎氏のグループや、連合と関係が強い旧民社党系のグループは、ベテランが相次いで落選。衆院113人のうち、前原氏ら当選5回以下の議員は93人にのぼった。前原氏の「先輩」はもはや20人しかいない。
 「当選した国会議員だけの投票で代表を選ぶのはおかしい。せめて落選議員は仲間として扱うべきだ」
15日の両院議員総会でそう訴えるベテラン議員を、前原支持派の若手たちは冷ややかに見ていた。
 前原グループの特徴は政策通を売りにしていることだ。前原氏は外交・安保分野に精通する。民主党が胸を張るマニフェストづくりは若手たちの独壇場だ。前原氏は、「シンクタンクを作る構想を促進させて、霞が関に頼らず政策立案をする」と力説した。
 だが、「政策主義」の若手台頭に戸惑いは少なくない。東京10区で刺客第1号の小池百合子氏に惨敗した鮫島宗明氏(61)は選挙戦をこう振り返った。
 「最大の敗因はマニフェストにある。前回はマニフェストブームで民主党は躍進した。その後、マニフェストをどう正確に書くかばかりに必死になった。ふと気づくと、われわれは『マニアフェスト』を作っていた。小泉首相は書かない。その代わりに語る。書くのは人を正確にするが、語るのは人を豊かにする。政治には豊かさが必要です」
 若手にも「マニフェストに頼りすぎ。自力で勝つことが必要だ」との声もある。前回の総選挙でマニフェストブームを仕掛けた当の菅氏も今回は、「若手には政策通になれと言ってきたが、もうやめた。これからはケンカが強くなければならない」と路線を転換した。
 大粛清で政策純化路線を進むのか、ベテランの融和路線が踏みとどまるのか。小泉ハリケーンは民主党に二者択一を追っている。

 

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