フィンランド症候群

「フィンランド症候群」朝日新聞天声人語1994年7月23日
 少し前のことになるが、フィンランドの保健当局が実施したという調査の結果が興味深い。食事の指導や健康管理の効果がどのようなものであるかを、科学的に調ベようという調査である▼四十歳から四十五歳の管理職を約六百人選ぶ。彼らには、承諾を得た上で定期検珍、栄養学的な調査などを受けてもらう。また、運動を毎日すること、たばこ、アルコール、砂糖などの摂取を抑えることを約束してもらう。そして、そういう健康管理を十五年間続けた▼その効果を比較して調べるため、同じ職業分野に属する別の六百人の群れを選んだ。これは同じ年月、いかなる健康管理の対象にもされない人々である。彼らには、何の説明もせずに定期的に健康調査表に回答を書き込んでもらった▼そして両方の群れの比較をした。はっきりした違いが現れた。心臓血管系の病気、高血圧、死亡、自殺・・・いずれの数も一方の群れが少なかった。何と、それが健康管理の対象ではなかった人々だったというのである。医師たちは仰天し、実験結果の公表をひかえたそうだ▼R‐ジャカール、M・テヴォス共署、菊地昌美訳『安らかな死のための宣言』に紹介されている話である。健康管理は不要だ、などど速断するわけにはゆくまいが、調査結果の含意はまことに意味深長だと思われる▼本は「治療上の過保護と生体の他律的な管理は、健康を守ることにはならず、逆に、依存、免疫不全、抵抗力の低下、要するに不健全な状態をもたらす」と指摘している。私たちの生き方万般についても考えさせるものを含む言葉だ▼過保護が依存を生む。そのまま、子供の育て方や教育のあり方に通じる話である。そして自律が自立につながる。むろん必要な医療は受けなければならないが、健康保持には、平生、自ら抵抗力をつけ、免疫機能を高める工夫が肝要だと知らされる。

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