木は会話する

植物には目があり、木は会話する
週刊文春2001.6.14P86
読むクスリ、上前淳一郎
木は会話する
 「柳の葉に毛虫が取り付いてかじりだすと、柳の木は渋い味がするタンニンを分泌しはじめるんです」
と東京大学大学院の農学生命科学研究科教授、谷田貝光克さん(五十七歳)。
 急に葉が渋くなったので毛虫は嫌がり、逃げ出していく。
 逃げずになおも食べ続けると、タンニンが消化を妨げ、「食べても養分になりませんから、毛虫は成長しきれず、最後には死んでしまいます」
 そんなに効力があるなら、ふだんからタンニンを葉にたくさん蓄えておけばいいような気がするけれど、「強力な成分ほど、自分にとっても毒になります。ですから、毛虫に食べられ始めたところで作るのです」
 なんて賢いんだろう。そうやって柳は身を守っているのだ。
 「もっと驚かされることがあります。というのは、この柳がタンニンを作り始めると同時に、隣に立っているまだ食べられていない柳の葉も、タンニンを作りだすのです」
 いち早く隣近所への毛虫の来襲を知り、撃退の準備に取りかかるのだ。
 どうして、そんなことができるのか。
 「おうい、毛虫だぞ、気を付けろ−−葉をかじられた柳が教えるんですよ」
 しかし植物は、声も音も出せない。「空気中に化学物質を放出して、隣近所へ情報を伝達するのです」
 アルコールのような揮発性の物質を飛ばすのだと考えられる。周辺の柳はその匂いを嗅いで、急ぎ防衛態勢を敷く。
 「ですから柳はこの化学物質によって、危険を知らせあう会話をしていることになりますね」
 同じような〃会話〃は、ポブラ、シラカバ、ヨーロッパオークでも交わされ、一本の木の葉が食われると、仲間はただちに毛虫が嫌がる物質を分泌することがわかっている。
 「となりますと〃会話〃に使われる成分を研究すれば、環境に害がない除虫剤を開発するのも夢ではなくなります」
 その揮発性の化学物質を人工的に合成し、空気中に放出してやる。
 すると植物は、近所に害虫が来ているぞ、という情報をキャッチしたと思い込み、自ら防衛態勢を作る。
 直接毛虫を殺す薬剤を使うわけではないから、環境にやさしい。
 「もっといいのは、この化学物質を人工的に合成するのではなく、木自体から放出させることですね」
 たとえば大根畑に柳を植えておき、この柳の葉を毛虫に食べさせる。
 柳が、おうい、毛虫だぞ、気を付けろ、と警告を発するのを間いて、大根が身構える…。
 柳の言葉を大根が理解できればうまいのだが。

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