ベルクマンの法則 寒冷ほど大きく 渡来弥生人は身長が高かった

ベルクマンの法則寒冷ほど大きく
日本人の顔、小顔・美人顔は進化なのか
埴原和郎、講談社、1999、P167、
体表面積で体温調節
 あ私は第七章で「渡来系弥生人は身長が高かった」と書きました。話が顔からそれますが、これも一種の寒冷適応と考えられますので簡単に説明しておきましょう。
 北東アジア人の体つきをみると、アジア系の人びとの中では身長が高く、やや大柄です。しかし胴の長さに比べて四肢が短く、またウエストが太めなので全体としてずんぐりした体型になっています。ではどうしてこんな体型ができあがったのでしょうか。
 哺乳類の気候への適応について、「寒冷な地方では体が大きくなり、高温多湿の地方では小さくなる」という法則があります。これは「ベルクマンの法則」としてよく知られており、ヒトに限らず、哺乳類の大部分にあてはまる一般的法則といっていいでしょう。
 ご承知のように、哺乳類は恒温動物ですから体温を徴妙に調節しなければなりません。私ども自身が経験するように、たとえば風邪をひいて一度ほど体温が上がるだけで相当な不快感におそわれますし、三、四度も上がると重症になってしまいます。それにもかかわらず、外界の温度は一日のうちに一○度以上も上下し、一年では数十度の差を示す地域が少なくありません。さらに年間の平均気温をみますと、たとえば北欧のオスロでは四度前後ですが、南アジアのバンコクでは二八度以上になります。しかしオスロの人とバンコクの人で体温が違うというわけではありません。
 このように、外界の気温の高低にかかわらず同じ体温を維持できる埋由は、体内の複雑な調節機能によることはいうまでもありませんが、その補助として、もっと物理的な調節法も採用されているのです。その原埋は、身長が高くなるにつれて体温の保持に役立つ体積は急に増えるが、体温の発散に間係する体表の面積はゆるやかにしか増えない、という簡単な物理法則です。
 日常の例をあげますと、大きなやかんいっぱいに入れたお湯は冷めにくいけれども、小さなやかんのお湯はすぐ冷めてしまいます。やかんを球体として計算しますと、たとえば半径が二倍になると体積は八倍近くになるのに、表面積はほぼ半分の四倍くらいにしか増えません。そこで、大きいやかんほど保温性が高いということになります。
 哺乳類の一例としてクマをみると、南方のマレーグマ、本州のツキノワグマ、北海道のヒグマ、アラスカのホッキョクグマの体は、南から北に行くにしたがって大きくなっています。オオカミやシカなども同じです。
 この法則はヒトの場合にもほぼあてはまります。たとえばヨーロッパでは、一般的傾向として北欧の人は大柄、地中海に近い南欧の人は小柄です。また北米大陸のアメリンド(アメリカ先住民)にも同じ傾向がみられるばかりか、アメリカ国立自然史博物館のE・ニューマン博士(人類学)の研究によると、高温地域では時代とともに身長がわずかながら低くなってきたということです。つまり、気温への適応は現在も進行中だということになります。
 このような事実に照らしてみると、アジア系集団の中で北東アジア人たちの身長が高いことも寒冷適応の結果と考えていいでしょう。しかしこればかりではありません。北東アジア人の体つきにはべつの変化もみられるのです。
私どもアジア人は、ヨーロッパやアフリカの人びとに比べて胴が長く、下肢(脚)が短いという体つきを持っています。もう少し正確にいえば比座高が高く、比下肢長が短いということになりますが、これに加えて比上肢長‐身長に対する腕の長さの比‐も短いのです。そしてこの傾向は、東南アジアより北東アジアの集団に一層強くあらわれています。
 日本人の成人男性の場合、体表面積は約一・六二平方メートルといわれますが、そのほぼ三分の二が四肢の表面積ですから、四肢が短くなると体表面積が急速に減少し、したがって体温の放散量が少なくなります。また胴が長く、さらにウエストが太くなると体積が増すので体温の蓄積効果が高くなります。つまり、四肢が短くて胴が長いという体型は寒冷地向きであり、北東アジアの葉団でその傾向が強いことは、彼らが顔ばかりでなく、全身で寒冷気候にうまく適応していることを示しています。
 逆に熱帯アフリカの集団では四肢がきわめて長く、胴が短く、また全体としてやせ型です。とくに下腿‐膝から下の部分‐の相対長は白人より長く、『古事記』に出てくる「長髄彦(ながすねひこ)」という名を思い起こさせるほどです。このような体型では体表面積が極端に大きく、体積が小さくなるので体温の発散効率が大きくなり、熱帯向きということになります(図8‐5)。実は、ベルクマンの法則は〈体型が相似形の場合〉という条件のもとで成り立つのですが、北東アジア人の場合は体の大きさばかりでなく、胴と四肢のプロボーションを変えることによって体温調節の効果を高めているのです。このような体型の変化をみると、彼らの寒冷適応がいかに徹底しているかがよく理解できます。

気候による体型の変化.jpg

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