医療よくすれば経済がよくなる

がんばらないけど
あきらめない 鎌田實
この国で医師を続けていくのに疲れました 週刊朝日2006.10.27P66


 このままでは日本の医療はつぶれてしまう。一度崩壊すれば、受診待機者100万人といわれているイギリスのように国民は不幸になるだろう。イギリスではここ5年間で1.5倍の医療費に増額しても、医療の供給体制は回復してこない。
 日本の医療もトコトン壊してしまってはいけない。土俵際の今のうちに手を打たなければいけないのだ。
 虫垂炎の手術は、ニューヨークは243万円、ロンドン114万円、台北64万円、ソウル51万円、日本は16位で37万円。実に安いのである。
 低い費用で医療を維持できているのは、アメリカの同規模の病院に比べれば6分の1という少ないドクター数で、忙しく働き続けて、医療の崩壊を防いできたからだ。勤務医の労働時間は週64時間、研修医は92時間、なんと150時間働く研修医がいた。クレイジーだ。病院の医師は疲れている。
 ぼくが50歳で引退を考えたのも、あまりの激務とストレスだった。この国で医師を続けていくのに疲れてしまった。あーあ。
 医師の仕事は大好き。だから、嘱託医として気楽に働かせてもらっている。質の高い医療をやりたいと思い続けてきた。医療費が抑制される。そんな中で優しい医療をしようとすると、奇跡に近い綱渡りをしないといけない。経営も成り立たせて、いい医療をすることに燃えつきてしまった。
 患者満足度を調べても、日本は32%、アメリカ72%。くやしいけど、考えてみればあたりまえである。
 WHOが日本の医療は世界で一番いい医療と言ってくれても、国民は満足していない。いずれイギリスのように優秀な医師は外国へ出てしまうだろう。だからといって、アメリカのようになればいいのだろうか。市場原理に医療を任せれば、医療費はさらに高くなり、しかも不幸な国民が増える。
 対GDP比の国民医療費は、最新のデータでは、アメリカが15%、日本が7.9%。イギリスは医療費の増額に踏みきったので、これからは、日本が先進国の中で最低になるだろう。
 アメリカでは自己破産の原因の第2位が医療費の負債である。日本では医療費の支払いで破産する人はゼ口ではないにしても、ほとんどいない。昨秋のハリケーンで偶然見た米国の光のあたらない世界。貧しい人たちが避難できず、たくさんの命が奪われていった。4600万人いると言われる医療保険にも入れない人たちの生活の姿が垣間見えた一瞬だった。
 多民族国家をコントロールするために競争原理を持ち込まざるを得なかったアメリカをまねて日本人が幸せになれるとは思わない。気候も違う。アメリカは砂漠があってドライ。日本は梅雨があってウエット。そのおかげで豊かな水の恵みがある。水がおいしい。この気候で何千年も生きてきた日本人のDNAはウエットである。ドライなアメリカ流の市場原理は日本人を幸せにしない。アメリカをまねてはいけないのだ。
 どうする日本の医療。つぶさないようにするにはどうしたらよいのか。
 国民が納得、安心できる医療システムを構築する必要がある。まず、OECD加盟国の平均値、GDP比8.6%へ国民医療費を上げること。せめて先進国の平均にはしなくちゃあ。現在32兆円の医療費を2年後の医療費の改定時に34兆円に増額する。
 しかし、国民負担を増加させてはいけない。経済の回復に、水をかけてはいけないのだ。アメリカの3倍。フランスの7倍近い、異常に高い公共投資。政治的判断ですぐにできるものもある。青森県六ケ所村の核の再利用のための施設に、19兆円使われる予定だという。世界が、お金がかかりすぎる、危険という理由で手を引いた核サイクル事業に、日本だけが、一度決めたことだと言い続けて、方針を転換しない。

医療よくすれば経済がよくなる

 このお金を使えば、これから10年近く、国民負担は一銭も増やさずに、がん医療や、救急医療、在宅医療など、一気に解決できる。産婦人科、小児科、麻酔科医などの増強もはかれる。老後に大病しても安心の国になる。そうすれば1500兆円の個人金融資産を持っている国民が、自分の人生を豊かにするためにお金を使い出す。そうすると日本経済は良くなる。経済が良くなったあとで、OECD6〜7位のフランス並みのGDP比10.1%の医療費に5年ほどかけて増加させる。
 こうやって日本の医療の質を上げると、2013年の医療費は40兆円になる。このあと総ワク制を導入して、これ以上、医療費を増額させないシステムをつくる。現在の国庫負担は8兆円。7年後に40兆円に医療費を増額させても、国庫負担は10兆円である。国の負担はわずか2兆円の増額なのだ。このための消費税の増税なら国民は納得すると思う。いい医療を国民は望んでいる。国民が安心できるシステムをつくるのが政治の役割だと思う。
 僕ら医療の提供側もいい医療をしたいのである。安心の医療をつくるためにどうしたらよいのか。本年○月○日(日)、緊急シンポジウムを企画している。東京・○○○○で10時より4時半まで。カマタの講演もあります。国民に理解してもらい、国民の共感のもとに、医療制度改革を行うべきである。新しいメッセージを全国に発信していかなくてはいけないと考えている。
ぜひ聞きにきて下さい。

かまた・みのる
1948年、東京生まれ。医師。諏訪中央病院名誉院長。著書に「がんばらない」「あきらめない」「がんに負けない、あきらめないコツ」ほか。

(院長註)2006年の話です。シンポジウム間違えて行ってしまった人が出たらいけないので、日時、会場は伏せさせていただきました。

 反原発の流れの現在でこそ、生きてくる話ではないでしょうか?全部使ってしまっていないことを祈ります。

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